ブランド・ストーリー Marlboro Story
世界最大のタバコ製品の製造・販売メーカーであったフィリップ・モリス・カンパニーズ(Philip Morris Companies)は2003年1月27日「アルトリア・グループ」へ社名変更を行なった。 現在米国では傘下のフィリップ・モリスUSAがMarlboroブランドのたばこを製造販売している。
ブランドとマーケティングの関係を考える上で参考となるのがフィリップモリス社の代表ブランドMarlboroたばこのマーケティングである。
1924年に、女性向けたばことして発売されたMarlboroは、1960年代に男性向けたばことしてイメージ転換を図り、これが奏功し世界最大のたばこブランドの地位を構築した。 一方、1980年代以降、たばこが持つ健康上の特性により販売手法をはじめ消費者とのコミュニケーションが制限されはじめ、結果として現在では多くの国でたばこ商品ブランドのコミュニケーションが禁止され、たばこパッケージ自体にも喫煙についての警告記載が義務付けられる事態となる。
このようなマイナスの環境下、フィリップモリス社をはじめとするたばこ各社は、たばこ商品を想起させる多様なマーケティング手法を開発してきたが、この過程でブランド価値研究が大きく進んだといわれる。 現在では、マッチョな男のたばことして有名なフィリップモリス代表ブランドMarlboroのブランドコミュニケーションの変遷を見てブランドとは何かを考えてみたい。
(1) 女性向けたばこブランドMarlboro 1950年代までの米国のたばこ市場はキャメル、ラッキーストライク、チェスターフィールドといった三銘柄がタバコ市場における確固たる地位を確保していた。フィリップモリスが1924年に女性向けタバコとして発売したMarlboroは低迷していた。 たばこの吸い口が赤く着色されているのは口紅が付いても目立たないようにとの配慮であり、「Mild As May」のキャッチフレーズで広告展開を行っていた。また、パッケージ上部のデザインは、女性の魅力的な部分である唇をイメージしたものと言われている。 しかし全くと言ってよいほど売れず苦戦を強いられていた。
(2) たばこ規制への対応 1950年代にリーダーズ・ダイジェスト誌が、喫煙と肺癌の因果関係に関する一連の記事を公表し、たばこ業界は製品のみならずパッケージや広告の表現などブランドコミュニケーションの在り方について大きな見直しが迫られた。 まず各社はパッケージへの注意書きとフィルター付きたばこの販売を始めた。 フィルター付きの新しいマールボロは1954年に発売され、1955年に三角形の傘のデザイン(マールボロ・シェブロンやルーフトップなどと呼ばれる)と世界初のフリップトップ・ボックスを導入した。
(3) 男性向けたばこブランドへの転換 このようなたばこに対する逆風ここのようなたばこに対する逆風このようなたばこに対する逆風が厳しくなる中で同社はMarlboroブランドの大転換を実現する。同社は1960年代の初めにMarlboroを男性向けのタバコとして位置づけ「マールボロ・カントリー」のキャッチフレーズとともに「Marlboro Man」というカウボーイを作り出した。この大転換により、マールボロの市場占有率は急上昇し、広告キャンペーン開始から8か月で5,000パーセント増加したといわれる。
(4) ブランド世界の創造(=ブランド価値)
この経緯が物語っていることは、ブランドと商品を連関させるコミュニケーションにより独自のブランド世界を提示し米国のたばこ愛好家に米国特有の「西部」、「フロンティアスピリット」という米国古来の価値観を共有することに成功したとされる。 カウボーイ世界では、一日中馬に跨って動物を相手にする仕事上、火を使わない噛みタバコの方が人気であるが、火が付いたMarlboroを加えて紫煙を吐きながら生き生きと西部で活躍する人物(Marlboro Man)を生み出すことに成功したのである。
(5) ブランド世界の拡張(=ブランド拡張) しかし、1950年代にリーダーズ・ダイジェスト誌が喚起した喫煙と健康の問題は、その後たばこ産業のマーケティングに大きな変化をもたらす。 特に当時から普及しだした映像メディアや雑誌新聞などへの表現規制の強化は、たばこ産業にとってそれらを積極的に活用せずとも商品パッケージを想起させるマーケティング手法の開発へと転換させた。
つまりブランドシグネチャーやロゴ、デザイン、コピーをたばこ以外の商品分野に展開しそれぞれのマーケティング表現として使用することで広告宣伝やイベント、およびニュースでのブランド露出を図るという手法である。 そこでは実在する商材をブランド想起させるためのツールとして開発する必要がある。商材が喫煙者に受け入れられなければ、その目論見は失敗になるので各社は、徹底的な喫煙者分析を行い、ブランド(価値)分析を行った。
その結果がMarlboroの場合、レーシングカーによるブランドデザイン露出、大西部開拓を思わせる冒険ツアーの開催、現代のカウボーイのための腕時計や各種小物の販売である。
(6)「ブランド」独自の進化 これらは、当初はたばこのプロモーション活動の一環として始められたが、その後はたばこ広告が禁止された国や地域においてはブランド想起を確実にするとともに、ブランド世界を具現化することで事業化(収益化)されてきた。これら一連の手法は商品と商標を分離したTMD(Trademark Diversification)と称されている。 1990年代後半にはスイスに設立されたフィリップモリス社の子会社が、これらMarlboroの商標、デザイン(シグネチャー)を管理し、たばこ広告禁止国においては、TMD商品の広告がでブランド想起を行った。
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